【リテールマーケティング】現場との終わりなき綱引き、そして予期せぬ事件——耐久消費財メーカー本部が向き合ってきたリアル

リテールマーケティング

私は以前、家電量販店向けに商品を展開する耐久消費財メーカーの本部で、リテールマーケティングを担当していました。売り場でどう見せ、どう伝えるか。その設計と運用が、日々の仕事の中心でした。

この仕事をしていて、根本にずっとあった考えがあります。それは「現場にこちら側のミスを押し付けることは絶対にしてはいけない」ということです。
当時、商品本体の訴求力を高めるために、スペックや独自機能などのUSPを伝えるツールを店頭で運用していました。当然、記載の間違いは許されませんし、サイズ設計も極めて重要です。少しでもはみ出せば、現場から「これ、どこに貼ればいいんですか」という問い合わせに直結します。
だからこそ、「ここに貼ってください」と図解入りの詳細なマニュアルを作成して展開していました。それでも、その通りに運用されないケースは何度も発生します。全く違う場所に貼られてサイズがはみ出していたり、本来意図していた訴求ポイントとは異なる場所に貼られ、結果的にメッセージがお客様に伝わっていないと感じる場面も少なくありませんでした。
現場担当者にも、あえてそうしている意図がある場合があります。それを一概に否定はできません。ただ、その「個人の意図」が介在することで、本部側の「本来の訴求意図」が汲み取られなくなってしまう。人と人が違う以上、資料を受け取る側によって解釈のズレは常に付きまといます。この課題は、おそらく完全にはなくなりません。だからといって伝えることを諦めれば、状況はよりカオスになるだけです。「どこまで細かく指示し、どこまで現場に委ねるか」という綱引きを、その都度考え続けること。これが、本部の意図を店頭に届ける仕事の、最大の難しさだと思っています。

先ほど触れた店頭ツールは、既製品ではなく、私たちの商品専用にゼロから作り込んだオリジナル品でした。
このツールは、展示後に店舗の在庫から再販される「売り物」に直接貼るものです。そのため、糊を強くしすぎると糊残りが発生して再販できなくなり、逆に弱くしすぎると時間の経過とともに端がめくれ、剥がれ落ちてしまいます。「糊残りはしないけれど、しっかりと剥がれ落ちない」という絶妙なバランスを求めて、試行錯誤を繰り返しながら、ようやく実用レベルに仕上げていたものでした。現場との綱引きを重ねながらも、少しでも意図が正確に伝わるようにと手間をかけてきたツールだったのです。

そんなある日、営業担当から連絡が入りました。
「ツールを貼った展示機の筐体に、変色が起きているみたいです」
写真を確認すると、貼った部分と貼っていない部分で、明らかに色が違う。特に濃い色の商品ではその差が一目瞭然でした。セールス担当の見立ては「糊が、筐体の塗装に悪影響を与えたのではないか」というものです。
これには本当に血の気が引きました。あれだけ試行錯誤を重ね、糊の強さから素材まで調整してきたツールです。「ここまでやってきたのに、それでもまだ問題が起きるのか」という焦りと徒労感を抱えながら、私一人ではどうにもならないため、すぐに二段階の対応を動かしました。
1. 不良品として展示機を引き上げ、社内で正式に受理してもらう
2. 工場サイドの開発メンバーに現物を送り、原因調査を依頼する
即座に判断できるものでもなく、精神的にも実務的にも消耗する数週間でした。

工場からの報告を聞いて、私たちはある意味でホッとし、同時に別の意味で背筋が伸びました。
調査の結果、問題があったのはツールを貼った部分ではなく、貼っていなかった部分だったのです。原因は紫外線による経年劣化。当時のツールは紙ではなく銀蒸着素材を使っており、紫外線をほぼ完全に反射していました。つまりこのツールは「日焼け止め」のような役割を果たしており、それが貼られていない広い面だけが、店内の蛍光灯の紫外線を浴び続けて色褪せていたのです。
犯人は糊ではなく、店内の照明でした。
なぜ今まで気づかなかったのか。答えは商品サイクルにありました。当時は3〜4ヶ月に一度は新商品に入れ替わるスピード感があり、色褪せが表面化するほど長く展示され続けることがなかったのです。それが半年、あるいはそれ以上、店頭に置かれ続けるようになったことで、初めて可視化された現象でした。

結果として、これは長期展示という特殊な条件下で起きたレアケースであり、大がかりな対策は取りませんでした。「ツールを貼らない」という選択肢もありましたが、それでは店頭での訴求力そのものが落ちてしまいます。
ただ、この経験は今も強く記憶に残っています。どれだけ緻密にマニュアルを作り込んでも現場との解釈のズレは消えず、どれだけ試行錯誤を重ねてツールを作り込んでも、想定していなかった角度からトラブルは起こる。ビジネスに「絶対」はありません。
大切なのは、予期せぬことが起きないようにすることだけではなく、起きたときにどう向き合い、何を学び、次にどう活かすかまでを覚悟を持って考え抜くことだと思っています。そしてその向き合い方の質こそが、現場を持つ企業とそれを支援する立場の、存在価値の差になるのではないでしょうか。

「本部の意図が店頭に伝わらない」「想定外のトラブルにどう備えればいいかわからない」——同じような課題をお持ちの方は、一度お話を伺えればと思います。株式会社マーケバディでは、こうした現場のリアルを踏まえたリテールマーケティング支援を行っています。


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