「現場を分かっている」と言うのは簡単だ。私は毎朝8時、何百人分の日報を1時間かけて読んでいた

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始業の1時間前。まだ誰もいないオフィスで、パソコンを立ち上げる。
開くのは、メールでもスケジュールでもない。全国に散らばる、何百人ものセールスマンが前日書いた「営業日報」だ。
それを、1時間かけて、全部読む。これを、何年も毎朝続けていた。

箇条書きで淡々と報告する人。まるで小説のように、その日の商談の空気まで伝わってくる人。愚痴っぽい人もいれば、妙に前向きな人もいる。
でも、何百人分を読み続けていると、行間から「昨日、全国の売り場で本当は何が起きていたか」が見えてくる。
数字には出てこない、お客様の一言。現場が静かに抱えている不満。誰も報告していないけれど、明らかに空気が悪くなっている店舗。
それを毎朝インプットすることで、自分の中の「現場の解像度」を、ずっと保ち続けることができた。

私はもともと15年間、営業をやっていた。その後、マーケティングの仕事に移った。
だから「現場のことは分かっている」と、正直、最初は思っていた。
でも実際にマーケター側に回ってみると、面白いことが起きる。自分がセールスだった頃は「こんな施策、絶対に現場は動かない」と分かっていたはずのことを、マーケター側に立つと、ついやってしまうのだ。
立場が変われば、見える景色は変わる。分かっているつもりの過去の経験は、今の自分の都合で、静かに上書きされていく。
これは、意志が弱いからではないと思う。人間の頭は、そういうふうにできている。

だからこそ、日報を読むことにこだわった。
もう一つやっていたのは、施策の骨子ができた段階で、親しいセールスに「ぶっちゃけ、これどう思う?」とフランクに聞くことだった。もちろんそれは一人の意見にすぎない。でも「あ、その視点はなかった」という引っかかりを、早い段階で拾えるだけで、施策の精度は変わってくる。
現場の声は、宝の山だ。でも、そのまま鵜呑みにしてしまえば、それはただの御用聞きになる。現場の熱量をリスペクトしながら、同時に一歩引いて全体を見る。このバランスだけは、譲らずに持ち続けていた。

当時は、自分の頭と時間を使って、その解像度を保つしかなかった。
でも今なら、違うやり方ができる。全国から届く日報のような現場の生の言葉を蓄積し、そこから「現場のリアルな反応」をシミュレーションできる仮想の壁打ち相手を作ることだって、決して大げさな話ではない。
「このSPツールを配ったら、店頭でちゃんと使ってもらえるか」を、施策を実行する前に、現場の温度感に近い形で確かめる。もしあの頃、そんな環境があったら、私が毎朝1時間かけていた作業は、もっと違う使い方ができていたはずだ。

営業出身のマーケターやコンサルタントに、時々こう感じる瞬間がある。
「もう自分はマーケティング側の人間だから」と、現場から一歩引いてしまう瞬間。あるいは逆に、「自分は現場を知っている」という過去の実績にあぐらをかいてしまう瞬間。
どちらも、実はよく似ている。現場感覚は、更新し続けなければ、静かに錆びていく。
今、御社のマーケティング施策は、どれくらい「今の現場」の温度感を反映できているだろうか。その解像度を仕組みとして保ち続ける方法について、一度お話しできればと思う。


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